新シリーズ「ちょっと知りたい」Vol.1。地元資源のサスティナブルな利活用を考えるきっかけとは?大雪山国立公園旭岳の0合目から始まった「登山道整備」。地元の人による発信で、地元の人が参加した、手探り手作りの活動について。
新たな豊かさを
SDGsという言葉が徐々に耳に馴染んてきたこの頃です。エコという言葉は既に定着し、サスティナブルという言葉の意味を知らない人も少なくなってきていると思われます。
自然・環境・資源といった「限りある」モノに対して、興味や関心が高まっていることが要因の一つ。
時間・お金・健康といった、これもまた「限りある」コトに対して、有意義な活動の場が求められていることも、要因の一つなのかもしれません。
経済活動最優先の20世紀から、豊かさの価値を見直す21世紀へ。ちょっと大袈裟な表現ですが、新たな豊かさを体感できる小さな活動が、私たちの地元でも始まっています。
今回から始まる新コラム「応援したい」では、北海道旭川市近郊で展開されている、規模は小さくとも豊かな活動を紹介していきます。モトクラシースタッフが勝手に応援させていただいている、それぞれの活動のキーマンたちに是非とも会いに行ってほしいと願っています。
初回に紹介する活動は、東川町で実施された「登山道整備」についてです。
地元の人の苦言がきっかけに
2020年の8月下旬から10月上旬まで、旭岳の麓「天女ヶ原」にて登山道整備の活動が行われていました。場所としては旭岳ロープウェイの山麓駅付近。ロープウェイを使わない登山者が歩き始める最初の区間です。
環境省・上川総合振興局・東川町役場など、行政・自治体の協力もあったようですが、主に整備作業を行ったのは東川町内在住の山岳ガイドさんや、旭岳の監視員さんたち。
活動の声掛けを行ったのは大雪山国立公園保護協会の大塚さん。
きっかけは旭岳温泉エリアの関係者が集まった部会での「苦言」だったそうです。
「天女ヶ原の登山道が汚い」
「危ない」
「お客さんにおススメできない」
「恥ずかしい」
北海道の登山道全般に言えることですが、管理の責任者が「国」なのか「北海道」なのか「それ以外」なのか明確でないという問題が長年続いています。また、各組織の予算の問題もあり、大規模な修繕や、恒常的なメンテナンスもままならないというのが、北海道の国立公園内にある登山道の現実です。
結果として整備されない道は人が歩かなくなり、人が歩かない道はさらに放置され、どんどん未整備の登山道が増え続けている。そういった負のスパイラルが起きていることに、大塚さんは以前から課題を感じていたそうです。
感じ続けていた課題意識の最中に、直接地元事業者の方たちから突き付けられた苦言の数々。
旭岳を中心とする国立公園の魅力発信を行う職員として、身近な問題に何か対策を講じなければいけない。
大塚さんは誰かにお願いをするのではなく「自分たちでできることをする」という行動を起こすことにしたのです。
素人集団の試行錯誤
活動の様子は写真をご覧ください。手作業に次ぐ手作業。専門家のアドバイスもいただきながら、限られた予算の中で、素人集団がどこまでできるかは、まさに挑戦の連続だったとか。
最初に撤去した古い木道は20年程前に設置されたもの。設置や管理の記録もほとんど残っていないため、当然撤去時の注意点などは分かりようもない状態。すっかり腐ってしまった木道は見た目に汚いだけでなく、ネジが飛び出しているなど危険もいっぱいだったそうです。
旭岳ビジターセンターのすぐ横が、実は旭岳の0合目(スタート地点)だということを知っている人は少ないかもしれません。旭岳を目指す多くの登山者はロープウェイを利用し、一気に5合目付近まで足を運ぶのが一般的だからです。
ちなみにロープウエィを利用すると、森林限界をあっさりと突破するため、下車後は頭上に広がる森の景色を楽しむことはできません。旭岳は高山植物を楽しむ場所と思われがちですが、0合目からしばらくは見事な針葉樹林帯が広がっています。まだ歩いたことのない人は是非とも0合目からのハイクもお楽しみくださいませ。
とは言え、前述したようにスタートしてすぐの登山道はかなり荒れていて危険な道だったのです。歩く人が少ないことはもちろん、「誰にもおススメできない」と苦言が集まってしまうことも仕方のないことでした。
0合目から1合目へ向かうと、その先は湿原地帯です。このエリアも景勝地ではあるのですが、整備以前は雨が降った時に水が登山道へ流れ込んでしまっていました。歩きにくいというだけではなく、登山道がどこにあるかも分からなくなってしまうほど、多くの水が流れ込んでいたそうです。今回の整備活動では、湿原の方へ水の流れを導く「導流工」の設置を行うことで、歩きやすく自然にダメージを与えない登山道が整備されました。
今回の活動で整備できた区間は約1.5km。0合目から1合目まで、旭岳登山の出発口が、整備前に比べてとても綺麗に安全なものに整備されました。また、1合目には新たに休憩用のベンチも設置されたとのこと。
9月末には早速、親子を対象に参加者を募り、ツアーを実施。新型コロナウィルス感染予防対策を行ったうえで、ガイドと一緒に国立公園の自然を満喫したそうです。
安全な登山道があるからこそ、安心して山に行くことができる。小さなお子さん連れなら尚のこと。
自分たちで整備した登山道を、誰かが安心して利用する。利用した人の中から自然と登山道を守りたいと思う人が現れる。その繰り返しがサスティナブルな活動と言えるのかもしれません。
鶏が先か卵が先か。
自然保護の答えはなかなか見つからないし、答えが一つではないでしょう。
それでも地元の自然を活用することと、地元の自然を守ることは、決して相反する行為でないと大塚さんは考えています。
成果と想い
大塚さんが活動を通して感じた最大の成果は「専門業者でなくても予算をたくさんかけなくても整備はできる」ということに気が付いたこと。
地元の人ができることを少しずつでも続けていけば、これからも登山道は綺麗に保たれ続けるし、地元の山を愛する人ももっと増えるだろうと強く感じたそうです。
『自分たちでやった整備作業は楽しかったですよ』
笑顔でそう振り返ってくれた伝えてくれた大塚さんは、これからもできる範囲で、地元の山と長く付き合っていきたいと考えていました。
ボランティア精神をことさら訴える訳でもなく、求める訳でもない。
ちょっとした気づきと、ちょっとした行動力。
そんな「きっかけ」が、一人でも多くの地元の人に生まれれば、地元の環境は守られていくのでしょうね。
整備作業お疲れさまでした!
来シーズン、早速「天女が原」へ歩きに行こうと思います。
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